より最近では、これら2つの都市は、クリエイティブ・ワーカーの居住する地域の生活の質(QOL)の向上に戦略的な配慮をするようになった。すなわち、伝統的な中心市街地の活性化計画だけでなく、「主要大学のキャンパス(major university campuses)」の周辺地域の生活の質(QOL)を高め、それを高い質に維持することにかなりのエネルギーと資源をさくようになったのである。
この、主要大学の周辺地域のライフスタイルと生活の質(QOL)に注意するという施策は、ほとんどの主要なハイテク地域で典型的に行われている戦略である。シリコンバレー、ルート128(ボストン)、シアトルなどの有名なハイテク中心地は、それぞれサンフランシスコやボストンやシアトルの中心市街地に立地しているのではない(郊外立地)。新規起業するハイテク企業は、典型的には、主要大学のキャンパス(maior university campuses)の周辺地域で生まれる(インキュベートされる)、そして規模が拡大すると、より郊外にあるハイテク産業団地などに出ていくことが多いのである。
たとえば、(ボストンでは)MITの周辺地域であるケンドール広場のところは一度衰退しすさんでいたが、再開発し、改造するべく多大の投資が行われた。いまでは、リノベーションされた工場や倉庫が、新規企業、ベンチャーキャピタルファンド、レストラン、地酒醸造所、カフェ、ホテルなどのスペースに変換されている。
(サンフランシスコでは)スタンフォード大学に接するパロアルトの中心市街地が、新規企業、ベンチャーキャピタル、ハイテクサービス事業者などのためのオフイスだけでなく、高級店、レストラン、カフェ、ホテルなどの活動やアメニティの中心として機能している。
このような大学地区というのは、その地域が、「大学とともに」クリエイティブ経済のなかに確固たる位置を示しているということ、若者向けであること、大学に関係した技術や新規起業を大切にしているということを示す視覚的な目印を提示しているものなのだ。こうした地区は、才能を吸引し維持するための磁石として、また、若いクリエイティブ。ワーカーが住んで働きたくなるような場所を作るという重要な機能を呆たしている。
才能は何を求めるのか
すでにみてきたように、オ能は、クリエイティブ経済下における地域の競争力の重要な要素である。それゆえ、オ能のある人々が、住みたい、働きたいと感じる場所とはどのようなものか……をよりよく理解することが、決定的に重要になる。1998年にKPMGが1200人以上のハイテク・ワーカーを対象に行った調査では、新しい職場の魅力に関する因子を調べた。その結果、「コミュニテイの生活の質」は、 1位だった「給料」をわずかに下回る第2位の重要さがあり、「給付金」「ストックオプシヨン」「会社の安定性」などよりもはるかに重要とみなされていた。
・「給料」給料が1%増加するごとに、その地位に人がいきたくなる確率は、1%ずつ増加する。
・「コミュニテイの生活の質J その職場の魅力度の33%を説明する。
・「家族・友人に対する近さ」その職場の魅力度の19%を説明する。
・「給付金」その職場の魅力度の17%を説明する。
・「ストックオプシヨン」その職場の魅力度の14%を説明する。
・「会社の安定性」その会社が定評あるしっかりした企業の場合、職場の魅力度の7%が増加する。
クリエイティブ・ワーカーが、住みたい、働きたいと感じる場所をどのようにして選ぶのかということに関する情報をより詳細に得るために、われわれは、ビッツバーグで一連のフォーカスグループ研究を行った。ビッツバーグは、ハイテク研究では代表的な大学であるカーネギーメロン大学がある都市である。フォーカスグループにおいて、ハイテク産業にいる若者が、住みたい、働きたいと感じる場所をどのようにして選ぶのか、そしてそれはなぜか、ということに関する因子を調べた。参加者は、すでに住居を選んだか、選びつつある、若いクリエイティブ・ワーカーを含んでいた。彼らには、選んだ都市と、その選択の理由について幅広い質問をした。グループは4つの小グループにわけられた。大学の理工系の学部生、大学の経営系の学部生、全分野の大学院生、すでに就職している若い専門職である。フォーカスグループの参加者は、大小さまざまなアメリカの都市やヨーロッパ、南アメリカ、アジアなどの幅広い場所からきており、人種、民族、性別で十分な多様性がある。学部学生は、出身地、エスニシティでより多様性があるが、若い専門職はこれに比較すると均質的である。いいかえると、白人男性である傾向が大きくなる(このことは、彼らがビッッバーグを住み働く場所として残った人々である可能性があり、すでにその選好のバイアスがきいているのかもしれない)。
こうしたフォーカスグループからの発見は、統計的調査や事例分析の結果を補完し、クリエイティブ・ワーカーの立地選択に影響を及ぼす因子をより正確に特定することの助けになる。第1に、アメニティは、明らかに、若いクリエイティブ・ワーカーの立地選択にとって影響がある。フォーカスグループの参加者は、居住・就業場所選択において、アメニティと環境に高い価値をおいている。フォーカスグループの参加者は、居住・就業場所選択において、基本的には、経済的機会とライフスタイルの両者のバランスをとって選んでいるのである。彼らは決して、単純に仕事だけをみて選んでいるのではなく、職場を変わることによってキャリアアップをはかることができ、クリエイティブ経済的なライフスタイルがあるような場所を選んでいるのである。事実、フォーカスグループ研究の発見から、ハイテク分野のクリエイティブ・ワーカーは、ある程度まで、選択時において、労働市場よりは、その地域の環境やレクリエーションの質といったライフスタイル因子のほうに、より配慮して選択を行っていることが分かった。このときに参加者が定義するアメニティとは次のようなものである。
・明らかに活動的な若者が多数いること。
・多様なアウトドア活動へ容易に参加できること。
・活気あるミュージックやパフォーマンスのシーン。多様なライブミュージックの機会。
・多様なナイトライフの経験。ノンアルコールの種類のものも多数あること。
・清潔で健康的な環境と、行楽。レクリエーションに適した自然資源の保全。
・若者向けで多様さを維持したライフスタイル。
事実、多くの参加者は、特定のアメニテイがその地域の周囲にあるのかどうか(ほとんどその地域の活力の外的シンボルのように……たとえ自分がそうしたアメニテイを活用しないとしても)ということを知りたいと述べていたのである。
こうした、高いアメニテイの場所への志向性は、ナレッジ・ワーカー(知識労働者)のキャリアの本質に関係しているのである。ハイテク分野での仕事は、ストレスに満ちており、長期間の労働を強いられる。ライフスタイル的アメニテイは、ストレスの癒しの源となることができる。若いクリエイティブ・ワーカーは、労働時間が長いために、自分だけで楽しむ時間がほとんどなく、その結果、「何かしたいことがあるとすれば、気晴らし効果のあるものであってほしい」といういい方をしている。また、ハイテク分野での仕事やキャリアは、不安定で、頻繁な転職や配置換えがつきものである。クリエイティブ・ワーカーたちは、自分のキャリアを、機会と経験の連続とみている。アメリカ労働省によれば、25~34歳のワーカーの勤務年数の中央値はちょうど27年で、32歳までに平均的なワーカーは、フルタイム・パートタイム合わせて9回の転職をしている勘定になる。ジョブホッピングが当たり前のシリコンバレーでよくいうせりふで、「駐車場を変えないで(近間で)転職できる」と冗談にいうくらいである。フォーカスグループの参加者は、クリエイティブ経済における仕事とキャリアの現実を考えて、多数の確実な就業(転職)機会を提供でき、高質の生活ができる場所を提供できる都市を選ぶと報告している。住みやすい場所である高アメニテイの都市は、職場が提供しないようなライフスタイル型のパフォーマンスをもたらしてくれる。
しかしながら、クリエイティブ・ワーカーの望むアメニティは、伝統的アメニティとはずいぶん異なっている。工業化経済時代の一連のアメニティとは、文化的アメニティ(交響楽団、オペラ、シアター、バレイなど)や、高額入場券(ビッグ・チケット)型の楽しみ(全国チェーンのレストラン、ナイトスポット、メジャーリーグのスポーツ会場)などが典型であったといえる。この手のアメニティは依然重要ではあるものの、よリカジュアルで、オープンで、包摂的で、参加型の活動に移りつつあるという証拠がある。フォーカスグループの参加者は、多様な種類のこうしたよリカジュアルな活動ヘの好みを表明していた。それは、アウトドア的アメニテイ(ボート漕ぎ、サイクリング、ロッククライミングなど)やその他のライフスタイル的アメニテイ(活動的なミュージック・シーン、アウトドア・レストラン、有機食品のスーパー、ジュース・バーなど)の活動である。参加者たちは、また、バーや飲み屋に限定されないより広い意味でのナイトライフが好みであると述べていた。参加者たちは、多様で、オープンで、他の若い人々を含むような広い意味での経験を求めており、こうした活動を、より高価でより閉鎖的なアメニティ(交響楽団やプロスポーツなど)と厳格に区別していた。
アクセスの容易さは、大きな関心事であった。参加者たちは、アメニティや活動が、すぐ行けて、徒歩や自転車や公共交通でジャストインタイムに利用できるようになっている地域を強く選好した。若いクリエイティブ・ワーカーの多くは、車をもたず、逆に車を必要としない地域に立地することを望む。さらにフォーカスグループの参加者は、仕事場から切れ目なく連続的に存在するアメニティがあることを望んでいた。いいかえると、長時間労働するクリエイティブ・ワーカーは、昼休みでも、仕事の後でも、望んだときにすぐ手に入れられるような瞬間的なアメニティを望んでいるのだ。
若いクリエイティブ・ワーカーはまた、その都市や地域について、より深く知りたいと望んでいた。若いクリエイティブ・ワーカーは、一般論として、地下鉄やLRTといった大量公共交通機関を、より広い範囲の地域へいく移動手段として好んでおり、そうしたものがあることが、居住・就業地を選択するうえで重要とみている。地下鉄やLRTによって供給されるモビリティや接続性は、ボストン、ワシントンDC、ニューヨーク、シカゴなどの地域の魅力として、重要なファクターになっている。さまざまな理由から、バスは、こうした接続性を提供するものとはみなされていない。
フォーカスグループは、水辺を、たんなる外出やナイトライフの場として重要とみているだけでなく、セーリング、カヤック、ボート漕ぎなどの水上活動の場として重視している。事実、水辺は、高アメニテイ地域にとって共通の重要要素とみなされている。もっとも成功しているハイテク都市のうちいくつかは、水系の近くに立地しており、こうした水系の資源をうまく戦略的に利用して、ローカルな環境の質を高め、レクリエーションや交通の機会を増やすように工夫している(アメニティとハイテクに関するオースティンとシアトルの例では、囲み記事をみてほしい)。
最後に、フォーカスグループの回答者は、多様性の重要性と、多様性を反映し支援することによって増す地域の魅力について指摘している。典型的には、ハイテク産業のクリエイティブ・ワーカーたちは、エスニック的に多様なバックグラウンドをもち、こうした多様性を反映するような場所を望む。
彼らは、自分たちがすぐとけ込めるような環境を探している。クリエイティブ経済におけるアメニテイ、たとえばライフスタイル、アウトドア、レクリエーションなどのアメニテイは、それ自身重要というだけでなく、多様で、協力的で、若者向けの環境があるということのサインであり、視覚的な目印なのである。フォーカスグループの参加者たちは、自分たちが、同僚や友人とすぐつながって、協力的関係を構築できるような場所への選好を表明している。このことは、こうした若い人々の多くが、友人や家族の協力的関係をあらかじめもたず、移転・移住しなければならないことを考えるととくに重要に思われる。
