クリエイティブ経済では、「才能」を吸引する能力は地域の優位性を生み出す。このことは、地域間競争が企業獲得競争をめぐって行われるオールド経済と対照的である。オールド経済では、企業の立地決定こそが地域経済の原動力であり、人間の立地決定は企業の立地決定に従うものだった。そして企業の立地決定のほうは、最終的には、天然資源の有無、交通体系の条件、労賃などに関して決まるものだった。クリエイティブ経済の到来は、この立地のやり方を劇的に転換する。クリエイティブ・ワーカーは、高度に移動性が高く、雇用主であるハイテク企業からみると喉から手が出るほど欲しい存在なので、事実上、彼らは自由にどこにでも望むところに住む。同時に、地域成長は、次第に、ハイテク企業を作り出して成長させるような才能の基盤を、生み出し、引きつけ、そして維持する地域の能力にかかっていくようになる。
事実、ロバート・ルーカスとエドワード・グレイザーの先駆的な研究によれば、地域の競争力の鍵は、高度な技能をもつ人々すなわちヒューマン・キャピタルを吸引する力とアイディアを生み出す力にあるという。今日、新都市経済学と新経済地理学の世代の研究者は、「非市場的な力と相互作用(non-market forces and interactions)」が、次第に、地域経済発展の中心に位置するようになっていると位置づけている。
このことをいいかえると、クリエイティブ経済において地域発展を生み出し持続するにあたっては、(それ以上とはいわないものの)「経済学的要因」とほとんど同じくらい、「社会学的要因(sociological factors)」が重要になってくるということなのである1の。こうした社会学的要因は、オ能ある人々にとって魅力的な幅広い環境を作り出すことをめぐって存在している。
それゆえ、クリエイティブ経済になると、地域の「ライフスタイルの質」は、その地域のビジネスのコスト構造、税の構造、物理的立地などと同じぐらい、地域の成功にとって重要となってくる。もしもそうでなかったら、シリコンバレーやボストン都市圏やワシントンDCやシアトルといった地価のばか高い立地の場所が、途方もない成功をおさめ続けていることがどうやって説明できるのだろうか。地域の優位性の鍵となる要因は、「その場所が、立地意思決定主体である若いクリエイティブ・ワーカーたちのイマジネーション、夢、欲望をいかにうまくつかまえられるか……」という能力にかかるようになってきている。
才能を吸引する能力が地域の優位性の重要な因子となるという命題は、いくつかの研究にもとづいている。たとえば、「南部技術協議会(STC)」は、最近の国立科学財団(NSF)のデータにより、理工系の高卒、大卒生の人口移動傾向を調べた。報告書は、全体として、オ能を新規に吸引する能力は、それを現状維持する能力よりも重要性が高いことを発見した。これは重要なポイントである。というのは、多くの地域が、現在の人口を維持し、そこから離れた人々を呼び戻そうとするオ能保持戦略をとってきているからである。この章では、全国レベルで才能を吸引しようとするより広い範囲に目を向けた努力のほうが、長期的にはより有効であるということを示唆する。
オ能保持力でトップの位置にあるのは、カリフオルニア州、テキサス州、マサチューセッツ州、ミシガン州などである。これらの州は、州内の理工系の大学卒業生のうち67~84%、理工系の高校卒業生の60~81%の移動を引き留めていた。主要なハイテク州は、この指標について、第1四分位から第2四分位の間に入っており、整合的である。
才能吸引力でトップの位置にあるのは、ニュージヤージー州、バーモント州、カリフオルニア州、テキサス州などである。ニュージャージー州とバーモント州は、州内の大卒者の1~ 2倍以上の学生を吸引し、カリフォルニア州とテキサス州は、州内の高卒者の1.15~ 1.5倍以上の学生を吸引する。ここでも、主要なハイテク州は、この指標について、第1四分位から第2四分位の間に入っており、整合的である。この報告書では、高卒生を保持するということは、同一州内の高度な大学に彼らを入学させるということであり、それはオ能一般の保持につながる重要なステップであるとしている。
しかしながら、「工業経済におけるアメニティ」と「クリエイティブ経済におけるアメニティ」とでは、かなりの差がある。工業経済においては、プロスポーッやファインアート(オペラ、クラシック音楽、劇場など)や文化的見物拠点(博物館や芸術展)などの「ビッグチケット(高額入場券)型アメニティ」が強調される。これに対し、クリエイティブ経済における典型的なアメニティは「アウトドアのレクリエーション活動/ライフスタイル型アメニティ」を中心に展開する。こうした差を検証するほどの系統的で比較しうるデータはそれほど多くはないが、新しい経済と古い経済との間の差を探る指標はいろいろ作ることができる。
交響楽団、オペラ、博物館、アートギャリーなどの文化的アメニティは確かに魅力的なものである。しかし、「芸術文化」と、「ハイテク産業ないしクリエイティブ・ワーカーを吸引する能力」との間には明確な関係性がない。
たくさんの主要な「ハイテク地域」は、また、例外的に、「芸術文化」にも恵まれている。しかしながら、「ハイテク地域」で、「芸術文化の指標」ではむしろ貧弱なところもあるのである。さらにそのうえ、「クリエイティブ・ワーカーとハイテクの指標」が低いが、「芸術文化指標」では相対的に高い地域も存在する。こうしたことから、「芸術文化」は、「ハイテク産業」や「クリエイティブ・ヮーカー」を誘致するのに有効ではあるが、「他のアメニティ要素」も有効であるように、「芸術文化」はそれだけでは十分ではないのである。
