才能を誘引するアメニティ
才能を誘引するアメニティ

ハイテク創出と才能吸引に成功した多くの地域、とくにオーステインやローリー=ダーラムは、「芸術文化」指標では貧弱である。しかしながら、皮肉なことに、「ハイテク産業」「才能」で相対的に低いランクにあるいくつかの地域、たとえばボルティモア、フイラデイルフイア、ビッッバーグ、デトロイト、クリープランドなどは、「芸術文化」でもっとも高いランクにある。

伝統的な芸術文化団体の有無は、ハイテク産業成長の予測要因として有効でないだけではない。過去何十年もの間、多くの都市が、地図上に名前をのせたいがために、メジャーリーグスポーツのフランチャイズを誘致しようとしてきた。しかしながら、プロスポーツは、ビッグリーグの地位と才能の獲得のためのメカニズムと考えられてきたにもかかわらず、「プロスポーツ」と「ハイテク産業ないしクリエイテイブ。ワーカー」との関係性はほとんどない。ボストン、ワシントンDC、シアトル、ダラスのように主要なハイテク地域でプロスポーッのスコアも高いものがある一方、プロスポーッがまったく低いところもある。事実、多くの成功しているハイテク地域のなかで有名なオーステインやローリー=ダーラムは、プロスポーツをまったくないしほとんどもっていない。

皮肉なことに、(プロスポーツよりも)「クール文化」のようにより曖味で一般には有名でないものの開催地であることのほうが、ハイテク企業を引きつけるのにはるかに有効のようである。『POVマガジン』誌が、地域のナイトライフ、バー、レストランなどのアメニティによる魅力をはかり、「クール度指数(Codness lndex)」として発表している。この「クール度指数」と「ハイテク発展」「才能」との間にはある関係がある。ボストン、シアトル、オースティン、サンフランシスコのような主要な「ハイテク地域」は、「クール度指数」と「ハイテク指数」の両方で高い。こうした同じ地域はまた、「クール指数」と「ソフトウェア産業就業者」でも同時に高いのである。アトランタ、デンバー、ミネアポリス、ダラスなども、こうした指標がかなり高いことで一致している。

最後に、フォーカスグループの研究によると、若いクリエイテイブ・ワーカーが望むもっとも重要なアメニティの1つが、文化的にも人口学的にも多様な住民構成であることが示されるようである。

ゲーリー・ゲーツは、この地方的・地域的多様性の問題を研究し、アメリカ大都市圏統計区(MSA)の単位で、ゲイの世帯の集積をはかった地域多様性の代理指標(ゲイ指数)を開発した。この尺度は、オルタナテイブなライフスタイルに対するその地域の開放性や吸引力をあらわす代理指標であり、フォーカスグループ内のクリエイテイブ・ワーカーによって、多様性を示す象徴的要素として指摘されたものであった。多様性を総合的に示す完全な指標とはほど遠いが、「ゲイ指数」は、若いクリエイテイブ・ワーカーが希望するような種類の文化的・ライフスタイル的多様性をうまく表現する代理指標としては好都合だった。「ゲイ指数」と、地域が「ハイテクビジネス」や「才能」を誘致する成功度との間には高い相関がある。主要なハイテク地域であるワシントンDC、ボストン、シアトル、オースティン、サンフランシスコなどは、多様性、ハイテク、才能のすべてが共通して高い値を示す。それゆえ、成功するハイテク地域は、人口学的多様性を支持し応援する地域であるとも考えられる。

カーネギーメロン大学の研究者チームとともに行った計量経済学的研究では、「アメニティ」と「才能」が関係していることのさらなる確証が得られている。この研究では、67の50万人以上のアメリカ大都市圏統計区(MSA)に対し、(ハイテクだけでなく)115種類のすべての産業別で分析を実行した。多変量回帰分析を用いて、「アメニティ」が、「技能の要求度や知識集約度の異なるさまざまなワーカー」を抱える産業それぞれの雇用に対して及ぼす効果を分析した。研究の結果では、その産業の「高度熟練ないし知識集約的労働者」への必要が高いほど、高い「アメニティ水準」を備えた都市におけるワーカーを雇用する傾向が強くなることが分かった。

この発見によって、「高度熟練ないし知識集約的ワーカー」と彼らを雇用する産業は、「アメニティ」の高い地域に立地する傾向にあり、したがって、生活コストは高くなる傾向にあることが示された。数種類の「アメニティ指標」と「学歴・知的集約度」の各段階の人口比との関係では、まずいえることは、「アメニティ」と「教育」の間には明確な関係があるということだ。「アメニティ」と各「才能」の人口の間の相関は、「学歴」が上がるとともに急激に高くなる1つ。さらにそのうえ、「アメニティ」と「知的集約度」の間の相関は、オ能のある人(大卒以上)に関しては高い正の関係にあり、そうでない人(高卒以下)については負である。

アメリカ全土ないし全世界の地域で、アメニティと生活の質(QOL)を高めようという努力がはらわれている。これは、シアトルやオースティンのような急速に成長するハイテク中心地でもとくにいえることである。両市とも、アメニティを経済成長戦略の重要な要素ととらえている。それだけではなく、ハイテクブームが起こる以前の早い段階からアメニティ戦略を進めており、ハイテク中心地になる以前からもっともすごしやすい場所と認められてきた。盛況のミュージックシーン(音楽関係の舞台)、高い環境の質、カジュアルなレストラン、自然の美の保全、スマートグロース、アウトドアアメニティに対する確実な取組みなどを着実に整備してきたのである。