才能の競争
才能の競争

クリエイティブ経済は、経済発展のあらゆる諸相を変えつつある。富の創造と経済成長の源泉として、知識とクリエイティビティは、天然資源と身体的な労働の効率性に置き換わる。この新しい時代には、ヒューマン・キャピタルないし才能が、生産にとってのキーファクターになった。

クリエイティブ経済の勃興により、都市・地域が比較優位を確立し維持しようとするやり方も変わりつつある。工業化時代には、成功のための因子は、ビジネスの「総コスト」という単純なものだった。大量生産時代には、各地域は、資源の賦与、交通利便性の整備、身体的労働のコスト・生産性を通じた自然な有利さを生かして、総コストを削減することによって、比較優位を確保した。

こうしたコスト削減圧力に突き動かされて、企業は、地代が安く、低賃金で高生産性の労働者、コストに敏感なビジネス風土をもった立地を選択してきた。典型的には、地域開発戦略とは、ビジネスコストを下げることによって、ビジネスを誘致するよう企画したいわゆる「ビジネス・インセンティブ」の手段をとることが重要となっていた。(この時代には、)環境や自然のアメニティなどは、たんなる第1次産業資源か、廃棄物処理場としてしかみなされなかった。

クリエイティブ経済になると、地域の優位性は、イノベーションを新しいビジネスアイディアや商品に変えるのに要求される、才能。資源・能力を素早く動員できるような場所に移った。主導的な地域は、こうした能力によって比較優位を確立する。こうしたクリエイティブ経済時代の比較優位地域は、新規ビジネスを始めるのに必要な資源をほとんど瞬間的にまとめて、イノベーションを実用的な製品に作り替えていく動員力の入れ物のような存在になっていく。こうした理由から、一連の比較優位は、最高のオ能を生み出し、維持し、吸引する地域に移動していく。クリエイティブ・ワーカーは極端に移動性が高く、才能の分布は極端に偏るので、このことは(クリエイティブ・クラスには)とくにあてはまる。

今日、地域の優位性を創出するのは、ヒューマン・キャピタルないし才能を引きつける能力なのである。オ能を獲得した地域が勝ち、才能を獲得できなかった地域は負けるのである。この点で、比較優位の軸は、「交通アクセス」などから「場所・都市・地域の質」へと代わりつつある。それゆえ、地域の才能ある労働者にとって魅力のある「場所の質(QOP:Quality of place)」こそが、ハイテク産業開発などを進める地域戦略にとって中心課題となったのである。

地域開発戦略にとって、このことは、「低コスト」から「高品質」へのシフト、単に「企業」を誘致することから、「才能」を生み出し、維持し、吸引するのに必要な一連の環境の構築へのシフトが起こっていることを意味している。例としてたとえば、クリエイティブ経済の勃興によって、環境と自然アメニティのもつ役割は劇的に変化する。これまでは、(産業にとって)天然資源の産出場所・産業廃棄物の処理場という役割であったものが、オ能を吸引するのに必要な総合的な魅力を作る重要な要素という役割に変わったのである。環境と自然アメニティは、そのような役割を果たすことによって経済成長を生み出すのである。

クリエイティブな人々の立地決定、すなわち、技術関連や専門職の新しい人々が、住んで働く場をどうして決定するかというプロセスを研究すれば、クリエイティブ経済の時代に、地域がどうしたら才能を吸引できるかということについて多大の情報が得られる。結果としては、アメニテイと環境が、クリエイティブ・ワーカーを引きつける強力な魅力の源泉なのである。ハイテク産業とハイテク地域の開発計画に、この要素が組み込まれるべき段階にきている。

それにもかかわらず、オ能、場所、クリエイティブ経済の成功の間の関係性を理解するためには、いくつかの問いに答える必要がある。クリエイティブ・ワーカーないし才能の立地決定を形作る主要な要因は何か。伝統的には、仕事やキャリアの獲得可能性といった市場の力が、この立地決定を支配していたと考えられてきた。こうした要因は依然重要ではあるものの、場所にもとづく要因、たとえばライフスタイル、環境の質、アメニティなどがこうした選択でどのような役割を果たしているのか。こうした要因は、どのような形で、経済発展のプロセスによリー般的な形で影響を与えているのか、という問いである。

才能と環境

工業化時代には、経済成長と環境は、一般には対立した概念と思われてきた。経済成長は、環境の質を犠牲にして成立するものと思われていたのである。事実、環境は、生産に投入する原材料を取り出す天然資源の原産地や、原材料や完成品を移送するたんなる中間の交通手段や、廃棄物や排出物のための投棄場所としてしかみなされてこなかった。工業都市や工業地域は、あまりひどく大気汚染が進んだので、管理職は昼にシャツを着替えなければならず、日中なのに街灯をつけなければならないほどだった。河川は高い壁で人目から遮断され、(あまり汚染がひどいので)自然に引火したりした。

クリエイテイブ経済では、状況は逆転する。環境の質は、単にそれ自身のために重要なだけでなく、オ能を引きつける前提条件として重要となった。主要企業は、環境と経済的競争力の間に新しい関係を構築した。こうした企業は、100年前の古くさい環境と生産性のトレードオフ(二律背反)関係を消滅させ、欠陥ゼロ(品質)、在庫ゼロ(ジャスト・イン・タイム発送)、廃棄物・排出物ゼロという3ゼロ生産につとめる新しい産業システムを先駆的に開拓した。また、会社施設のデザイン性・環境の質を向上させ、社員を引きつけるとともに、やる気をださせた。さらに、AOLのような主要ハイテク企業は、ワシントンDC、ボストン、サンフランシスコ・ベイエリア、シアトルにおけるような混雑低減やアーバンスプロール抑制の「スマートグロース運動」において指導的役割を果たしてきたし、今後も果たしていくであろう。こうした努力は、利他的な関心のみではなく、廃棄物・排出物を低減させ、より綺麗で緑あふれる環境を生み出すことによって、利益、生産性、売上げを増加させようとする実利的採算主義からもりっぱな理由がある。

いまや、前向きな地域はまた、環境を、経済的競争力、生活の質(QOL)、オ能の吸引力とみなしている。そのような地域は、スプロールを抑制し、スマートグロースを推進し、環境のサステイナビリティ(持続可能性)を促進し、古くなった工業地を浄化して再利用し、企業に環境マネジメントシステムの導入を促し、レクリエーションやQOL増進のため自然資源を保全するなどの努力をしている。例として、テネシー州チャタヌーガは、地域がどのようにすれば、経済発展戦略の中心として、環境の復元、リバーフロントの再開発、生活の質の改善、自然資源を利用できるかを示すやりかたをとった。

こうした都市は正しい道を歩んでいるといえる。ハイテクビジネスに関する調査や研究によれば、環境の質と自然のアメニティは、企業の立地決定にとってすでに重要要因となっていることが分かる 。

環境の質は、企業にとって、住宅コスト、生活コスト、通勤形態、学校の質、公共サービス、安全などの側面をおさえて、もっとも重要な立地決定要因となっている。とくにハイテク企業にとって、しばしば暗にいわれるCEOの好みなどよりもかなり重要なキーとなる立地要因である。しかしこの論理は他の業種ではいわれていない。それほど環境の質は、とくにハイテク企業の立地因子として、高くランクされている。

「環境の質」、「ハイテク」、「才能」の間の関係を調べてみると、「環境の質」「ハイテク産業集積」「才能」の間にかなりの関係があるということである。